魔王
勇者
魔王:ふっふっふ…はーっはっはっは!
姫は我が手中に落ちた!勇者よ…我がしもべ達を倒し、我の元にたどり着くことが果たして…
勇者:(被り気味で)ようやく見つけたぞ、魔王!姫を返してもらおうか!
魔王:えーーーっ!?ちょちょちょちょっと待って!?
勇者:どうした、魔王!今更怖気付いたのか!
魔王:いやいや、そういう事じゃなくて…一応聞くけど…勇者で間違いないよね?
勇者:その通りだ!王の命により、姫を取り戻しに来た!魔王、覚悟しろ!
魔王:ちょーっと待って!まず一旦整理しようか。
えーっと…姫が拐われたのっていつだったかな?
勇者:昨晩だな。貴様が兵士たちが寝静まった頃を見計らって襲撃をしかけたんじゃないか!
魔王:まあまあ、それはちょっと置いといて…それで今の時間は?
勇者:昼頃かな。
魔王:はい、そこが既におかしいね!
何でものの数時間で魔王城の、しかも玉座までたどり着いてんの!?
勇者:貴様こそ何を言っている?
我が城と魔王城は目と鼻の先の距離にあるじゃないか。
魔王:いや、それは直線距離ででしょ?
一応さ、ここって海と険しい山に囲まれてる島なんだからそんな簡単に辿り着けるはずないんだけど…
勇者:だから船でこの島まで来たんじゃないか。
魔王:船でって…このご時世に魔王城まで船を出す人間がいるとは思えないが…
勇者:確かにそうだな。だから自分で作った。
魔王:作った!?いや、勇者って船大工を兼ねられるもんなの?
勇者:そういうスキルを鍛えてたからな。あとは料理とか錬金術とか色々出来るぞ。ちなみに山登りのスキルもあるから山越えも楽だった。
魔王:あー…そっか。君、スキル性の勇者なわけね…
いやぁ…そこは想定してなかったなぁ…
勇者:おかしな事をいう魔王だ。何の話をしている?
魔王:いや、こっちとしてもレベル性の勇者を想定して布陣を組んでたもんだからねぇ…
色々と想定外すぎて…
勇者:つまり、私のやり方が正統派では無いといいたいのか?
魔王:まぁ、ぶっちゃけて言えばそうなんだけどね…
勇者:ほう…では正統派のやり方はどうすればいいんだ?
魔王:本来ならもっと色々と旅を経た上で段々と強くなっていって、それでようやく魔王城にたどり着いて欲しいわけよ。
勇者:目と鼻の先の距離に魔王城があるのにか?
魔王:いや、だからそこからまずおかしいんだって。いい?これ、世界地図なんだけど…たしかに君の城と魔王城ってこれでみるとすごく近いけど、本来はここは渡れないはずなんだよ。こうやってぐるーっと回るルートでようやく辿り着けるお城なの。分かる?
勇者:だから船があればここは渡れるだろう?
魔王:その船もだけど、本来は苦労してようやく手に入れられる代物なの。それだけ貴重なものなのよ、本来は。だからその道中に、我がしもべ達を配置して妨害しようとしていたのに…君のスキルのせいで全部台無しだよ。
勇者:うーむ…なかなか面倒臭いものだな。でも早く終われるならそれに越したことはないだろう?
魔王:確かに君みたいなスキルがあればサクサクと冒険は終わるかもしれないよ。
だけどさ…そんな簡単な冒険を、果たして本当に冒険と言えるだろうか…?
勇者:うーむ…確かに一理あるか…
魔王:長い旅を経て、旅の仲間や世界中の人々と触れ合って苦労して…そしてようやく旅の最終目的地、魔王城に辿り付けるからこそ感動もあるし、それこそ冒険と言えるんじゃないだろうか…
勇者:うむ…確かにそうだな…
魔王:まぁ、そういうわけで…ここは魔王である私の顔を立てて、もう一度スタートからちゃんとしたルートで来てもらえないかな…?正直、これじゃ部下に合わせる顔がないから…
大丈夫!姫はそれまでVIPとして丁重におもてなしして待っとくから。
勇者:まぁ、そういうなら…仕方ないか。出直してくるか。
魔王:あ、そうだ。ところでこの玉座にどうやって辿り着いたんだ?一応警備の者がいたはずだが…
勇者:あぁ、それはこの鉤縄を使って壁伝いに登って直接な。アサシンのスキルも磨いてるから。
魔王:アサシンスキル!?君、本当に勇者か…?
【おしまい】