勇者
王様
ナレーション
王様:よくぞ参られた。神託を受けし伝説の勇者よ。
今こそ、その神託の命に従い、魔王を倒すのだ。
勇者:はっ!私のような若輩者にそのような栄誉…誠に光栄でございます。
必ずや、魔王を討ち滅ぼしてみせましょうぞ!
王様:うむ。頼もしい返事じゃ。
ではわしから勇者への、わずかながらの餞別じゃ。魔王討伐の旅に役立てるが良いぞ。
勇者:はっ!ありがたき幸せ!
ナレーション:【勇者は「銅の剣」、「旅人の服」、「50ゴールド」を手に入れた。】
勇者:…えっ?
王様:さぁ、勇者よ!今こそ旅立ちの…
勇者:(遮るように)ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい、王様?
王様:ん?どうしたんじゃ?
勇者:いやぁ…ちょっと確認したいんですけど…私、今から「魔王」を討伐しに行くんですよね?
王様:うむ、その通りじゃが?
勇者:その割には、この餞別はあまりに少ないというか貧弱過ぎる気がするんですけど…
王様:だから「わずかながらの餞別」とあらかじめ言っておいたじゃろうが?
勇者:いやいや、そんな素で返されてもこっちが困るんですけど…
魔王ですよ?こんなんじゃ、この周辺のモンスター相手でも苦戦しちゃいますよ。
王様:えっ?伝説の勇者じゃろ?
何かすごい力とか持っててパパっと敵を倒せるもんじゃないの?
勇者:いや、もしかしたらそんな力が秘められてるかもしれないですけど…私、まだレベル1ですよ?目覚めるのはもうちょっと先だと思いますし…こんな装備じゃあ、目覚める前に死んじゃいますよ…
王様:そんなこと言われてものう…魔王の影響でこの国の財政もカツカツなんじゃよ…
何とかそれでやりくりしてくれんか?
勇者:人類の命運がかかってるこの状況でなんでそんな妥協されないといけないんですか。
もうちょっとマシなものを用意してくださいよ。せめて鎧とか…盾とか…なにかあるでしょ?
王様:でも、「旅人の服」は耐久性に優れてて冒険者はよく着とるらしいぞ?
勇者:そりゃ確かに着られてますけど…相手は魔王ですよ?旅人の服なんて一発で破かれますよ。布製品はマジで無いですって…
王様:でもデザインもファッショナブルで悪くないと思うんじゃが…
勇者;いや、必要なのはデザイン性より実用性ですから…それに銅の剣も、これ切れ味皆無ですよ?
王様:そうなのか?剣と言う割に安かったから用意してみたんじゃが…
勇者:何で魔王討伐に行こうっていう勇者の装備を、安く済ませようとしてるんですか!
王様:とは言ったものの、金属製の武器や防具もかなり高くて貴重じゃからのう…こちらも無い袖は触れないというか…
勇者:ん?…ちょっと待って下さい。私気付いちゃいましたよ?
そこの兵士たちが着てる装備…それ何ですか?
王様:これは、鉄の鎧と鉄の盾と、あと鉄の槍じゃのう。
勇者:ほら!ちゃんと良い装備あるじゃないですか!それ!そういうのを下さいよ!
王様:いや、でもこれは兵士たちの分じゃし…
勇者:兵士たちにそんな良いものを支給できるのに、なんで私のはこんなしょぼい装備なんですか!ちゃんとしたのを下さいよ!
王様:まぁ、何というか…我が身は可愛いというか…こんなご時世だし、自分の身の周りはしっかりと守りたいものじゃないか。その辺の増強をしとったらお金がなくなってしまってのう…
勇者:…んじゃ良いです。もうお古で良いですから、兵士の装備一人分、こっちに回して下さいよ。
それで何とか魔王討伐に行ってきますから。
代わりにこの装備置いていきますから、これを兵士に使わせれば良いでしょ?
王様:えーっ!そんなことしたら兵士の戦力落ちちゃうじゃん…
勇者:その落ちるっていう戦力で魔王と戦わせようとしてるんですよ、あなたは!
王様:うーん…そうじゃ!
もういっそのこと、勇者がこの城を守ってくれるというのはどうじゃ?それじゃったら、ワシもこの国も安泰じゃし。
勇者:世界を救う為に旅立つって言ってんでしょうが!そんなことしたら世界が先に滅んじゃいますよ!
王様:とは言っても…世界よりワシの身の安全の方が正直心配じゃし…
勇者:(怒り限界)もう…
いい加減にしてくださーい!(ドーン)
王様:ぎゃーーーー!(ふっ飛ばされる)
勇者:あっ…王様への怒りで何か勇者の力に目覚めたっぽい…
【おしまい】